大阪地方裁判所 平成11年(ワ)7725号 判決
原告 ポール・ドーリー
右訴訟代理人弁護士 丹羽雅雄
被告 株式会社日米英語学院
右代表者代表取締役 金久保
右訴訟代理人弁護士 堀井昌弘
上田憲
奥岡真人
岡本成史
畑良武
島武男
佐野正幸
主文
一 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
二 被告は、原告に対し、平成一一年二月二一日から本判決確定に至るまで、毎月末日限り、月額二七万五三七五円の割合による金員及び同金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、被告から解雇の意思表示を受けた原告が、同意思表示は合理的な理由のない解雇権の濫用であり、また、原告所属組合の壊滅を企図した不当労働行為であるとしてその有効性を争い、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と未払賃金の支払いを求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 被告は、英会話など外国語を教えることを主たる業とする会社であり、梅田校、難波校、天王寺校、枚方校などを開設している。
2 原告は、英国籍であり、平成二年二月八日、英会話の講師(パート社員)として被告に雇用され、引き続き同年三月二一日、被告との間で、契約期間を一年とする正社員としての雇用契約を締結した。これ以降、原、被告は、毎年契約を継続更新し、平成一〇年二月二日、契約期間を平成一〇年一月二一日から平成一一年一月二〇日まで、給料月額二七万五三七五円(毎月二〇日を締切日とし、同月末日を支給日とする)、労働時問一週二九・二五時間とする雇用契約を締結した(甲四の2)。
原告は、平成九年六月、労働組合ゼネラルユニオン(以下「組合」という)に加入し、同労組日米英語学院支部(以下単に「支部組合」という)を結成して副支部長に就任し、さらに平成一〇年三月一五日、支部長に就任した。
3 原告の被告における勤務内容は、梅田校において、英会話のレッスン等を行うというものであり、レッスンが入っていない場合には、その準備、宿題のチェック、テープの作成、レベルチェック、モデルレッスン等スタッフから依頼された仕事ないし教材の作成をすることとされていた。
被告における英会話のレッスンは、グループレッスンとプライベートレッスンの二種類があり、グループレッスンは、同一の講師が複数の受講生に対し、受講生が選択したコースのカリキュラムに従って一単位五五分間の授業を約三ヶ月(一二単位)にわたってレッスンするものであり、プライベートレッスンは、受講生が随時、自己に必要なレッスン(一単位四〇分間)を選択して予約していくというものである。
4 原告は、平成一一年一月二〇日、被告副学院長黒田典子から、「契約についての通知」と題する文書を提示され、同日付けで解雇する旨の意思表示を受けた(以下、「本件解雇」という。)。同文書には解雇理由として、<1>クラス予約率が五〇パーセント未満であること、<2>割り当てられた義務とスケジュールに関して職員に非協力的であること、<3>就業規則と合意書に違反することなどが記載されていた。
なお、被告の就業規則三七条には、「会社は、次の各号に掲げる場合に従業員を解雇することがある。(中略)3.従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合(後略)」との規程がある。
被告は、同月二九日、原告の銀行口座に、一か月分の給与とともに解雇予告手当を振り込んだ。
被告は、同月二一日以後の原告の賃金を支払わない。
二 本件の争点
1 本件解雇に合理的な理由があるか
2 本件解雇が不当労働行為に該当するか
なお、本件解雇について、被告はこれを解雇であるとしてその合理性等を主張し、期間満了による更新拒絶(その場合でも、本件の場合は、これまでの反復更新等により、解雇法理の類推適用はあると考えられる。)とは主張していないので、以下では、解雇か更新拒絶か問題とせず、解雇の適法性を論じることとする。
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1(本件解雇の合理性)について
1 被告の主張
(一) 原告の稼働率の減少
被告が原告を解雇したのは、以下のとおり、原告の就業状況が著しく不良で、就業に適しないと判断したためである。
(1) 被告では正社員講師の職務適性判断材料として稼働率を用いている。
稼働率とは、実際のレッスン時間がフルタイム時間(授業可能時間)に占める割合である。フルタイム時間は、契約時間から休憩時間(一日六時間以上の勤務の場合、その内の四五分間を休憩時間としている)、休暇日及びストライキ時間を控除して算定しているが、その算定に際しては、プライベートレッスンやレベルチェック、モデルレッスンなどが可能な四五分以下の時間帯を控除対象としない取扱としている。
(2) 被告には、約三〇名の正社員講師がいるが、その稼働率はほぼ七〇パーセントを超えるものである。
しかるに、原告の稼働率は、平成九年までは九〇パーセントを超えていたが、平成一〇年になると減少し、同年一〇月以降は五〇パーセント以下となり、平成一一年に入ると約三〇パーセントにまで減少した。
このような稼働率の減少は、後記のようなストによりレッスンが中断されることや、原告がレッスン中の組合に関する話をしたり、被告の悪口を言ったりすることが原因となって、原告に対するプライベートレッスンの予約が減少していったことによる。
稼働率が五〇パーセント以下の講師は雇用する意味がない。
(二) ストライキ
(1) 原告は、平成一〇年三月二八日から、他の組合員とともに賃上げ等を理由とするストライキ(以下「スト」と略称する。)をするようになり、レッスンがある場合は必ずといっていいほどストをした。
当初のストは、一単位のレッスン時間全部のストであったが、同年四月四日以降は、事前通告もなしに、一単位のレッスン時間の一部(五分ないし三〇分)につきスト(以下「部分スト」という。)をするようになった。
また、原告のストの方法は、ストライキ通告の際、赤い腕章を付けた複数の組合員が校内に入り、全員揃って受付にいるスタッフにスト通告書を大声で読み上げたうえこれを渡し、校外に出て、全員でスト時間中校舎入り口付近をうろついた後教室に戻るというものであった。
原告がしたストは別紙ストライキ報告書記載のとおりである。
(2) 被告は、全部ストの場合には休校、部分ストの場合には予定したレッスンが行われなかったことにするなどの措置を採ることを余儀なくされた。
このようなストの様子を見た受講生の中には驚愕の余り途中で帰る者もいた。
また、講師が固定されているグループレッスンについては、受講生の多くからストによりレッスンが進行しないことに対する苦情と講師交替の要請がなされ、被告は、かかる要請を受けて、同年四月一〇日頃、原告が担当するグループレッスンの講師を交替させることとしたが、原告らはこれに抗議するとともに、交替した講師のレッスン中、窓ガラス越しに教室内をのぞき込み、罵声を浴びせるなどの営業妨害等を繰返した。
さらに、被告は、プライベートレッスンに関しても、レッスン時間を四〇分から五五分に延長して、原告が一五分以上ストをしない限りレッスンを終了できるよう配慮した。
(三) レッスンがない時間帯の原告の就業状況
平成一〇年一〇月以降、原告はレッスンを担当しない時間が労働時間の五〇パーセント以上を占めることになったが、この時間につき、被告の業務命令を無視して、スタッフから依頼された仕事及び教材の作成をしないばかりか、スタッフ及び非組合員講師に嫌がらせを継続して行った。
被告の副学院長黒田や梅田校マネージャー平賀裕子らは、原告に対し、厳重注意をするとともに、真面目に勤務するよう諭したが、原告は聞き入れることなく、嫌がらせを激化させた。
2 原告の主張
(一) 稼働率減少について
(1) 被告が主張する原告や他の講師の稼働率は、算定方法や算定結果に誤りがあり、到底信用できるものではない。
(2) 平成一〇年以後の原告の稼働率が減少したことは認めるが、原告は、レッスン中に組合の話や被告を批判する発言をしたことはなく、稼働率減少は、以下の事情によるものであり、これを解雇理由とすることは合理性がない。
ア 平成一〇年四月一三日、被告は原告のグループレッスンを取り上げた。
このため、原告は週八時間のレッスン時間を失い、これのみでも稼働率三〇パーセントが減少した。
イ 新規受講生は基本的にはグループレッスンから開始し、その後、気にいった講師のプライベートレッスンを受講するようになる。
しかるに、原告がグループレッスンを取り上げられたことによって、グループレッスンからプライベートレッスンへの受講生の流れが取り上げられ、このことが稼働率に影響を及ぼした。
ウ 被告は、原告のプライベートレッスンの予約を入れないよう操作した。
受講生の予約を受け付けるのはスタッフであるが、梅田校のスタッフは、被告の指示を受け、受講生が予約する際、原告の存在や原告のレッスンが受講可能であることを告げず、あるいは「ポール先生はストライキをするかも知れない」と告げていたのみならず、非組合員講師のレッスンを積極的に勧めていた。
これらの結果、原告が、平成一〇年三月二八日に争議に入ってから本件解雇通告を受けるまで、原告の受講者で新規入学者はほとんどいなかった。
エ 原告が担当していた受講生でレッスンを全部終了して卒業していった者も多くいた。
オ 被告は稼働率算定に当たって、非組合員の稼働率を水増しし、組合員の稼働率を減少させるよう操作している。
モデルレッスンやレベルチェックは被告が担当者を決めているが、被告は、組合員講師にはこれを担当させない。そして、被告は、一〇分ないし一五分しかかからないレベルチェックでも四五分の一レッスンとして算定しているため、四五分間のうち、二つのレベルチェックをすることが可能となり、非組合員のなかには稼働率が一〇〇パーセントを超えるという考えられない結果が生じている。
これらが、原告や他の組合員講師の表面上の稼働率低下をもたらした。
(二) ストライキについて
(1) 原告は、レッスンがある場合、必ずストライキをしていたものではない。
スト通告に組合役員が来校していたのは原告がグループレッスンを取り上げられた平成一〇年四月一三日までであり、それ以後は、原告がスト通告書をファックスで送信し、あるいは手渡していた。
また、スト通告の際、原告らが大声を出したこともない。
支部組合は、被告が昇給要求やそのための団体交渉の要求を拒否し続け、平成一〇年四月八日に初回答を提示したものの、その内容は昇給を認めるものではなかったことなどからストを行うようになったものであり、また、被告が、原告らのスト中に代わりの講師(スト破り)にレッスンを継続させるなどしたため、これに対抗して部分ストを行わざるを得なくなったものである。
(2) 原告らのストをみて、途中で帰宅した受講生がいるとの事実は否認する。
むしろ、スト破りの講師を嫌い、あるいはスト破りを雇うことに嫌悪を感じて辞めた受講生がいた。
グループレッスンを取り上げられた原告らが、交替した講師のレッスン中教室内をのぞき込んだり、罵声を浴びせるなどして営業妨害をしたとの事実は全くない。
(三) レッスンがない時間帯の就業状況について
原告は、レッスンがない場合でも、宿題の添削、テープの書き出し、教材開発等でいつも仕事をしており、会社の業務命令やスタッフから頼まれた仕事はすべて行ってきた。
原告が、黒田や平賀から勤務態度について注意を受けたことはない。
二 争点2(不当労働行為)について
1 原告の主張
支部組合が、平成九年八月二五日、被告に結成通知を行って以来、組合員は、被告から組合脱退を迫られたり、不当な配置転換やレッスンの一方的削減などの嫌がらせを受け続けてきた。
支部組合は、平成一〇年に入り、春闘(賃上げ)要求のため、同年三月二八日に初めてストを行い、その後も断続的に争議行為を行ってきた。
この間、被告は、スト破りを雇って対抗し、また、支部組合員のグループレッスンの取り上げなどの不利益取扱、支部組合員コーリー・セント・ピエールに対する平成一〇年四月九日付解雇通告や支部組合員コリン・デイルに対する同月二〇日付契約更新拒絶通告など、組合嫌悪の不当労働行為を行い続けてきた。
本件解雇は、被告が支部組合支部長である原告を解雇することによって、被告から支部組合自体を壊滅させようと企図したものであり、不当労働行為であって無効である。
2 被告の主張
支部組合が、平成九年八月二五日、被告に結成通知を行ったこと、平成一〇年に入り、賃上げ要求等を求めて争議行為を行っていること、コーリー・セント・ピエール及びコリン・デイルに対し解雇通告ないし更新拒絶通告をしたことは認める。
その余の事実は否認し、主張は争う。
第四当裁判所の判断
一 争点1(本件解雇の合理性)について
1 証拠(甲一四の1及び2、一五の1及び2、一六の1及び2、一七、一八、二〇の1及び2、二一ないし二三、二六の1及び2、三二、三三の1及び2、三五、三六、三八、四一、四三、四五、四六、四八ないし五三、六一の1及び2、六三、六六、六八の1及び2、七四の1及び2、七五、七七、七九ないし八六、乙二の1及び2、三の1ないし49、四の1の1及び2、四の2、五の1及び2、八、一四、一七の1及び2、二一の1ないし13、二九、証人平賀、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 組合及び支部組合は、平成一〇年二月二日、被告に対し、従業員の雇用保険加入及び昇給を要求して、団体交渉を求めた。同月一九日及び同年三月一八日、重ねて団体交渉がもたれたが、被告は、雇用保険の加入の要求は承諾したものの、昇給の要求は拒否した。なお、この間の同月一五日、原告は支部組合支部長に就任した。
組合及び支部組合は、同月一九日から街頭演説やビラ配りなどを行うようになったが、これに対し、被告は、同月二七日到達の組合宛警告書で、原告らの行為が不法行為や業務妨害罪に該当し、今後組合員が同様の行為に及んだ場合法的措置を採る旨通告した。
組合は、これに抗議するとともに同日以降ストに入る旨通告し、同月二八日、梅田校において、原告ら組合員五名が授業を行わないというストを行い、その後、梅田校のみならず、難波校、天王寺校、枚方校などでも断続的にストを行うようになった。また、当初のストは、組合員らが一レッスンの全時間授業をしないというものであったが、これに対抗して被告がストに備え、他校から講師を手配し、或いは新規に講師を雇用するなどして授業を継続したため、原告らは、同年四月上旬から、授業開始後、授業時間の一部について授業を中止するという部分ストをも行うようになった。
この間、同月七日ころ、被告は支部組合の昇給の要求に対する回答を行ったが、その内容は、レベルチェック等を行った場合の報酬増額、その結果、受講生との契約に至った場合の報奨金増額等という条件付のものであり、組合の要求する一律昇給にこたえるものではなかった。また、同月八日及び一五日付で被告が組合にした団体交渉要求に対する回答では、組合側出席者を二名に限定しない限り交渉に応じないというものであり、組合はこれを団体交渉の実質的な拒否であるととらえ、結局その際の団体交渉は実現しなかった。
また、同月九日、組合員であるコーリー・セント・ピエールが同月九日解雇通告を受け、同じく組合員であるコリン・デイルが同月二〇日契約更新拒絶の通知を受けるに及んで、組合はこれらの撤回をも求めるようになり、さらに、その後も、労使紛争は、スト中の賃金控除や組合員浜昌子の有給休暇取得問題などにまで拡大してゆき、その結果、原告ら支部組合員は断続的なストを継続して行うこととなった。
被告は、このようなストのため予定したレッスン時間を消化できず、レッスンが進行しないという受講生からの抗議もあり、授業のスケジュールを変更して、同年四月一三日からグループレッスンから組合員講師をはずし、非組合員講師にのみグループレッスンを担当させることとした。これにより、原告は、それまで概ね一週七時間ないし八時間担当していたグループレッスンの授業を失った。
被告は、プライベートレッスンについても、同月二八日から夜間レッスンの時間を四〇分から五五分に延長し、部分ストによって授業が中断しても、スト時間が一五分以内に留まる限りレッスンが終了できるようにするなどしたが、これに対し、原告らは、一五分の時間をこえる部分ストをも行うようになった。
原告が、本件解雇までに行ったストは別紙ストライキ報告書記載のとおりである。
なお、原告のストは、教室内で受講生にストに入る旨告げ、腕章及びゼッケンを付けて教室を出て、スト時間中、教室外あるいは校外にまで出てその出入口付近で静かに佇立しているというものであった。ストの通告は、スト当日、原告から被告のスタッフに電話かファックスで、あるいはストで教室を出る際に通告書を渡すなどしてなされていた。
(二) 原告の稼働率は、被告が主張する算定方法と被告が陳述書で述べる算定方法とで、四五分以下の時間帯をフルタイム時間として算定するか否かなどの点について相違するため、それぞれの具体的な算定数値は一致しないが、原告の算定結果(甲四五)によっても、平成九年までは、ほぼ九〇パーセントを維持するものであったが、平成一〇年月七月ころから次第に低下し始め、五〇パーセント以下となる週も少なくなくなり、なかには一五パーセント(平成一〇年九月二八日から一〇月三日の週)、二〇パーセント(同年一〇月二六日から同月三一日の週)、二九パーセント(同年一一月三〇日から一二月五日の週)と極端に稼働率が低い週も散見されるようになり、平成一一年に入ってからは五〇パーセントを上回ることがなかった。
原告は、授業がない時間帯は、スタッフから依頼された受講生の宿題のチェックや教材の作成、評価表の作成などをしていた。
なお、被告は、受講生がプライベートレッスンを予約する際、原告ら組合員講師のプライベートレッスンを予約しようとする受講生に対して、同講師は、授業中ストをするかも知れないがそれでもよいかと告げるなどしていた。
原告がプライベートレッスンのみを担当するようになって後、被告を辞めた原告の受講生のうち、最終レッスンまで終了した受講生は少なくなく、他方、原告がストをするようになってから後、新規に入校した受講生で原告がプライベートレッスンを担当した者はいない。
2 以上認定の事実に対し、被告は、<1>原告がレッスン中に組合に関する話をしたり、被告の悪口を言ったりしていたこと、<2>原告のストの方法は複数の組合員とともに、受付にいるスタッフにスト通告書を大声で読み上げたり、全員でスト時間中校舎付近をうろついたりするものであったこと、<3>原告らは、スト中の代行講師のレッスン中、窓ガラス越しに教室内をのぞき込み、罵声を浴びせるなどしたこと、<4>原告はスタッフが依頼した仕事をしないのみならず、スタッフや非組合員講師に嫌がらせをしたことなどを主張しており、証人平賀はこれに沿う供述をするほか、橋長優子ら梅田校スタッフ作成の嘆願書(乙七)、黒田典子の陳述書(乙八、一四)、ジョシュアグリーンの陳述書(乙一六)、平賀の陳述書(乙二二)、橋長の陳述書(乙二三)には右被告の主張に沿う記載がある。
しかしながら、まず、証人平賀や右陳述書、嘆願書の作成者はいずれも被告に雇用されている非組合員であってその中立性には疑問なしとしないうえ、右嘆願書や陳述書には、原告の嫌がらせなどとして種々の事実が記載されているが、その記載は具体性(嫌がらせがなされたという時期、原告の発言内容、発言の相手方など)に乏しいものも少なくなく、しかも右嘆願書の作成者の一人である前田潤子の陳述書(乙一五)によれば、右嘆願書に記載された原告の言動は、そのすべてを前田自らが体験したものではないというのであり、また、右平賀の陳述書には、平成一〇年九月二七日に原告が代行授業の依頼を拒否した経緯が具体的に記載されてはいるものの、同日は日曜日であり原告の休校日である(甲六八の2)から、事実を虚構ないし歪曲しているか、そうでないとしても誤解ではないかと思われ、総じて、平賀の証言や右嘆願書、陳述書の記載の信用性には疑問がある。
また、被告は、レッスンのない時間帯に原告がスタッフの依頼する仕事等をしていなかったことの裏付証拠として原告や他の講師の「On-Duty Hour Record Sheet」(以下「勤務記録」という。乙四の1の1及び2、四の2、九の1及び2、一〇の1及び2、一一の1及び2、一二の1及び2、一三の1及び2)を提出しているが、証拠(甲五六ないし五九)によれば、勤務記録を記載していなかった講師が多数存することや、記載している講師にしても不記載時間が少なくないことなどが認められ、講師に対し勤務記録の記載がどれほど厳格に要求されていたか、また、それが講師の勤務状況の把握にどれほど役立てられていたかには多大な疑問があるというべきである。加えて、原告は被告提出分以外にも原告に関する勤務記録が存するとしてそれらの手持の控え分(甲二六の1及び2、七四の1及び2)を証拠として提出しており、これらによれば、少なくとも、被告提出証拠(乙四の1の1及び2、四の2)から認められる以上に原告が宿題のチェックや教材作成等レッスン以外の仕事をしていたことが認められる。
他方、原告は、被告主張の右事実をいずれも否認し、本人尋問や陳述書(甲三二、六一の1及び2、六八の1及び2)の記載でもこれらを否定し、反論しているところ、原告の受講生の多くは、陳述書(甲四八ないし五三、六六、七九ないし八五)において、原告からレッスン中に組合の話や被告の悪口を聞いたことはないこと、原告らが、スト通告の際大声を出したり、代行講師の講義中に教室を覗き込んだり罵声を浴びせたりしたことはないこと、原告のレッスン中の態度は穏やかで紳士的であったことなど、原告の右主張等に沿う記載をしている。
以上に照らすと、平賀の証言や被告提出にかかる右嘆願書、陳述書の記載はにわかには信用できず、他の前記認定を左右する証拠もないから、被告の右主張のうち、前記認定に反する部分は採用できず、その余の事実を主張する部分もこれを認めることはできない。
3 そこで、前記認定事実に基いて、本件解雇に合理的な理由が認められるかについて検討する。
(一) 被告は本件解雇の第一の理由として、原告の稼働率低下を主張する。
この点、稼働率の算定方式や具体的な数値には争いがあるものの、原告の稼働率が平成一〇年七月以降低下し、本件解雇時には五〇パーセントを下回る状況にあったことは争いなく認められる。
ところで、被告は、原告の稼働率減少の原因は、ストによる頻繁のレッスン中断や、原告のレッスン中の組合関係発言、被告を非難する発言等であり、これらが受講生から敬遠されたためであると主張するが、前記のとおり、原告がレッスン中に右のような発言をしていたとの事実は認められない。
これに対し、原告がストを頻繁に行っていたことは前記認定のとおりであり、これが原告の稼働率に影響したことは合理的に推認できる。
しかしながら、原告がストをするようになって間もなく、被告は、原告ら組合員をグループレッスンの担当からはずし、また、受講者が原告のプライベートレッスンを予約しようとする際、原告がストを行うかも知れないなどと告げていたのであって、このような措置をとれば、グループレッスンを喪失すること自体によるレッスン時間の減少をきたすのみならず、グループレッスンを経験して原告のレッスンを気にいり、その結果プライベートレッスンに移行するという受講生の流れは遮断されるし、また、ストの可能性を告知された新規の受講生は原告の予約を取ろうとはしないであろうから、プライベートレッスンしか担当しなくなった原告の新規受講生が激減するのは当然であり、現にスト開始後の原告の新規受講生は皆無となっている。他方で、従前からの受講生も、次第にレッスンの全課程を修了するなどして退校(卒業)していっているから、新規受講生の供給を絶たれた原告のレッスン時間はさらに減少していくこととなる。
これに関して、証人平賀は、原告のプライベートレッスン受講生の半数以上が原告のレッスンを嫌がっていたと証言するが、被告が原告のストの可能性を予告したりしていたことや原告の全レッスン中に占めるストの回数等の事情からすると、受講生が原告のレッスンを敬遠するようになった原因がもっぱら原告のストによるレッスン中断等にあったとすることはできない。
以上によれば、原告の受講生の中には、ストによるレッスン中断を嫌って自発的に受講を差し控えるようになった者もあるとは推認できるが、それ以上に、原告の稼働率が短期間に激減した主たる理由は右のような事情によるものと考えるのが相当である。
なるほど、ストが予見される以上、被告が、レッスンを成立させるためストによる影響の大きいグループレッスンから原告ら組合員をはずしたり、プライベートレッスンについても後の迷惑にならないようあらかじめストの可能性を告知したりしたことは、営業という観点からみる限り不当でないとの評価もあり得ないではない(もっとも、被告は原告らのストに備え、代替講師を準備したり、プライベートレッスンの時間を延長するなどしていたのであるから、右のような被告の措置が不可欠であったかについては疑念がないではないが、この点はひとまずおく)。
しかしながら、右のような措置は、他面では、意図的に原告のレッスン時間を減少させるものでもあることは明らかである。すなわち、グループレッスンの担当からはずすことは直接そのレッスン時間を奪うものであるし、プライベートレッスンについてもその予約時にストの可能性を予告することは、いわば欠陥商品であるとの告知をするのと同様であって、受講生がこれを敬遠することは容易に予測できることであり、間接的ながら原告のレッスン時間を奪うものというべきである。そして、稼働率は、講師が担当するレッスン時間の増減によって直接影響されるものであるから、被告が、ストに対抗するとの理由で右のような措置を採ることによって直接または間接に原告からレッスン時間を奪っておきながら、さらにこれによる稼働率低下を理由として解雇することは、畢竟、ストを理由にした解雇というのと径庭がなく、不当労働行為(労働組合法七条一号)にも該当するというべきであるし、そうでないとしても著しく不公正である。
したがって、原告の稼働率低下は本件解雇の合理的理由となし得るものとはいい難い。
(二) 被告は本件解雇の第二の理由として、原告のストについて種々主張する。
被告の主張の趣旨は、必ずしも明らかとはいいがたいが、ストを頻繁に行ったこと自体をもって解雇理由とするものであるならば、いかに頻繁であったとしてもそれが正当な争議行為の範囲内に留まる限り、合理的な解雇理由となるものではない。
被告は、原告らのストの態様等にも言及しているが、前記認定のとおり、原告らのストの目的は昇給や解雇撤回等組合員の労働者としての待遇改善等を求めるものであったし、これらをめぐる労使交渉は膠着状態になっていたのであるから、争議目的に違法は認められない。また、原告らがスト通告に当たって大声を出したり、スト中の代替講師のレッスンをのぞき込んだり、罵声を浴びせたりして妨害したなどの事実を認めることはできず、原告らのストによって、レッスンが進行せず営業が妨害されたとする点も、ストに通常伴うものであるからやむを得ない。さらに、事前予告がなかったと主張する点についても、前記認定のとおり、もともと、部分ストは、被告が原告らの一レッスン全部のストに対抗して代替講師を手配するなどしたため、さらに原告らがこれに対抗して行うようになったものであり、当日しかも時として直前になされるなど予告としては不十分ながらもスト開始前には通知されていたことが認められ、被告も、原告がいつストに入るかもしれないということは予期していて、全く予想できない状況で抜打ちストがなされていたというものではないから、かかる経緯、状況に照らすと手続的にも労使間の信義に反する違法なストであったとまでは認められない。
したがって、原告が行っていたストを理由として本件解雇を相当と認めることもできない。
(三) 被告は本件解雇の第三の理由として、レッスンがない時間帯の原告の就労状況の不良を主張する。
しかしながら、原告がレッスンのない時間帯を使用して宿題のチェック等スタッフから依頼された仕事や教材の作成などを行っていたことは前記認定のとおりであり、スタッフの依頼した仕事を拒否していたとか、スタッフに嫌がらせをしていたなどの事実も認められない。
したがって、レッスンのない時間帯の原告の就労状況が解雇を相当と認めるほど不良であったとは認められない。
二 以上によれば、本件解雇は、これを相当と認める合理的理由がなく、その余の点について判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効というべきであり、原告の地位確認及び賃金支払の請求はいずれも理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松尾嘉倫)